「タクティクスオウガ 運命の輪」を40時間くらいプレイしての感想(ネタバレなし)

タクティクスオウガというゲームを「神ゲー」や「良ゲー」と評価するのは違和感を覚える。初代ファミコンのスーパーマリオブラザーズや2D格闘ゲームのはしりとなったストリートファイター2をそう評価しないのと同じで、タクティクスオウガというゲームも普通の作品を評価する言葉には収まりきらないような存在である。野球で言うなら長島茂男やイチローをバッティング技術や生涯ヒット数で評価できないのと同じで、その存在に価値があり歴史に残り、歴史を変える存在。それがタクティクスオウガである。
…と、傍から見れば**電波な思い**をこのゲームに持っているわけで、感想と言っても何を最初に書いていいか迷ってしまう。とにかく最初に出てくるのは**「このゲームが再び日の目を見て本当に良かった」**という思いです。
そんな思いを持ちながら、以下なるべくフラットな視線で感想を書いていきたいと思います。
### シミュレーションゲームの新しい標準「運命の輪 C.H.A.R.I.O.T」
タクティクスオウガに興味が無い人でもこれだけは体験してほしい。プレイした後は最低でも**「タクティクスオウガにはやっぱり興味ないけどチャリオット機能だけは凄いね」**と言ってくれるはず。それだけすごいのが新機能「運命の輪 C.H.A.R.I.O.T」。「バトルの行動を記録し好きな所からやり直せる」って機能でそれだけ聞くと「へぇ…。」ってなもんだけど、一度使うと「なんで他のゲームってチャリオット機能ついてないんだろう?ていうか今まで思いつかなかったの?」と思ってしまう。それくらい凄い。
いや、僕も最初はこんなズルい機能を使うつもりは無かったんだけどあまりに自然にやり直しができるのだ。シミュレーションゲームで移動場所を1マスミスってキャンセルするのはよくある事だけど、それと同じくらい自然に意識せずにやり直せるのだ。
チャリオットは発想というかインターフェイスの勝利だと思う。Lボタンですぐに過去の行動を呼び戻して巻き戻せる。これが一度でも「チャリオットを使いますか?」と聞いてきたならきっと敬遠されてただろう。**チャリオットシステムは目新しい新機能というより新しい標準機能**と言える。いや、ほんと自然に組み込まれてるのよ。
### 少し複雑になった魔法システム
前作では1ユニットにつき3つの呪文書を装備できるというシンプルなものだったけど、今作は呪文書を"習得"し、コマンドスキルを"セット"することで呪文が使えるようになった。習得できる呪文書の数は無制限だしコマンドスキルも好きにつけられるから自由度が高くて迷ってしまうかもしれない(前作はエレメントの概念があったので「ああ、このキャラは炎系の呪文書使えばいいのね」と理解しやすかった)。とはいえ前作に慣れているからそう思うだけで、基本的には**たくさんの魔法が唱えられて楽しいです。**
僕自身はスキル枠を圧迫するからあまり属性がバラけない方がいいなぁ、と思ったまでは良かったけど「○○属性補正」というスキルがあるのは1章中盤まで気づかなかった。人によってはいろんな属性のスキルコマンドをつけたあとで「スキル枠圧迫するしスキルポイントの損じゃん!」と気づくしれない。まぁそれも試行錯誤のフローなので楽しめばいいと思うけど、ウォーレンレポートに育成方針についてのヒントが書いてても良かったかもしれないです。
あとインターフェイス的な欠点。僕はまだクラスレベル足りなくて使えない呪文書でも取りあえず習得させておくのだけど、そうやって習得させた呪文書がどこからも確認できない。しばらく経って「あれ~?このユニットは○○って魔法習得してたっけなぁ~?」と思って念のため店で買っておいていざ使えるレベルになって習得させようと思ったら「習得済み魔法」欄に呪文が現れ、呪文書が余ってしまう。せめてクラスレベル足りないけど習得させた魔法は「習得済み魔法」の欄でグレーアウトしてくれればなぁ、と思いました。
※ 2010/11/25 11:30 拍手で「習得済み使用不可魔法、切り替えで見えます。」と教えていただきました。ありがとうございます。
### 改善されたバランス
前作では
* 弓が強すぎる
* テラーナイトの恐怖効果がヤバい
* ペトロクラウド+ハボリム先生
などなど、クラス毎に使える/使えないが非常にはっきりしていた。その点今作ではどのクラスでも育てれば一線級になるのが嬉しい(あのタコさえも!)。特に動物系ユニットが強化され機動力UP+攻撃射程UPでかなり使いやすくなった。自分好みの部隊を作るのに無理して弱いユニットを使う必要が無くなった。これは嬉しいです。
他にバランスが良くなったのは魔法。前作はMPの回復が早くチャージスペルを使えば一気に大量のMPを獲得できたけど、今回は普通にプレイしてるとMPが枯渇して低級の魔法しか使えなくなる。そこで消耗品を利用してMPを回復したり投射系・放出系魔法を場面によって使い分けたりと、**手持ちのカードを状況に応じて使い分けることにちゃんと意味があるようになっている**のがシミュレーションぽくて嬉しい。前作で攻撃魔法といえば13パネル対象の放出系魔法か召喚魔法の2択だったので…。
### 職業選択の自由
今作ではアライメント(L・N・C)によるクラス転職制限が撤廃されたので、どの職業にも転職し放題です。同じくエレメント(炎・風など)のシステムがほぼ撤廃され属性付き武器もなくなったので、エレメント関係なく一番強い武器を使えばよくなっている。これで間口が広がったなぁと思うんだけど、なんというか…。**アライメントに沿って転職してエレメントに合った装備をして…というのが楽しかったのだけど。**普通にプレイする分には制約でしかないし「アライメントCだからクレリックに転職できないじゃん!」となってしまうのを防ぎたかったのかな。けどエレメントシステムはタクティクスオウガの世界観を構築するものの一つだったので残しておいてほしかったり。四姉妹…。
### 成長システムについて
今作ではクラス毎にレベルを管理するシステム。新しく雇用したユニットでも高レベルのクラスに転職すれば同じレベルになり育成する手間がかからない!という話だけど、レベル上げの手間を省くという目的なら**もうちょっと上手い方法があったんじゃないかな**、と思ってる。まずこのシステムの欠点であり一番悲しいのは**新しいクラスが使えるようになってもそのクラスはレベル1から**、ということ。そしてそのクラスだけを一気にレベルアップさせる方法がないこと。前作や他のSRPGと違って敵に止めを刺しても経験値が増えないので新しいクラスに経験値を集中できないのです。
せめて後から増えてくるクラスはベースレベルを上げてもらうとか、例えば世界樹の迷宮3の「聞きかじりの経験」みたいに放置してるクラスでも経験値が貰えるとかしてほしかった感じ。…まぁ15年前にひたすら石投げてたのに比べれば楽になってるのかもしれないけど、大人になった今では気になってしまうという悲しみ。
### その他細かい点
* スキルシステムや呪文書システムで「やれることが増えた」ために編成画面がちょっと複雑になってるかも。
* 装備は店で買ったものを直接装備できれば楽だったかな。何をいくつ買うかってをショップ画面と編成画面を往復しながら選ばないといけない。
* 合成はもうちょっとちゃっちゃと作業できるようにしてほしかったかな。
…と細かい点を書いたのですが。正直そんなものは**ゲームの面白さに比べたら些細な問題に過ぎない。**
これはゲーム全般の事だけど、ネットの口コミゲームレビューとかで「動きがもっさり」とか「バグがある」とか「誤字脱字が多い」とか"スペック"的な評価でゲームを評価している書き込みがある。確かにそういう**誰にでも分かる欠点は評価が楽で評価した気になる。**頼りたくなるのも分かる。けど動作が快適でバグが全く無く目だった欠点の無いゲームが面白いんだろうか?
ディズニーランドの楽しさを文章だけで表現するのが難しいように、本当に面白さというのは文字だけで伝えにくいものだと思う。「面白そう」とか「やってみたい」とか思ったら、例えネットで細かい点が批判されていたとしても**自分の感覚を信じてゲームを選べばいいと思う。**


ゲームからも離れちゃうけど、他人の口コミを重視しすぎるのって「何かを選ぶとき、そんなにハズレ引きたくないか?」とは思う。確かに口コミは頼りになるけど自分を一番知っているのは自分だし「自分の基準で何かを選ぶ」って経験を(失敗も含めて)自分の好みってのが掴めてくるし、自分に価値があるものを選べるようになっていくと思う。


話しそれましたが。上で書いた問題も含めてファミ通の評価が40点中36点だったのは納得できる。正直始めて30分でで面白さが分かるゲームではないし、最初はユニットをどうやって育成していけばいいか分からず、大海に放りだされた感もあって戸惑う。面白いと思えない。
けど4,5マップこなしてくるとユニットの特色が分かってくるし、各種スキルも掴めてくる。そうなると**「こいつにはこのスキル覚えさせて、戦闘ではこういう役割を担わせて…」**とだんだん夢が広がってくる。逆に**この時点で夢が広がらない人には楽しくないゲーム**だろう。それはシミュレーションゲーム全体の性質なので仕方無いと思う。
※ と思ったけどファイアーエムブレムってユニット毎に成長ルートを選ぶ権利ってほぼないよね。成長ルートは一直線。そういう意味では敷居が低いのかな、と思った。
### タクティクスオウガをおすすめするわけ
タクティクスオウガの魅力を一言で表すと「温もり」だと思う。なんて言いつつエグいイベントもあるけれど、可愛くデフォルメされたキャラと温もりを感じる操作感。箱庭みたいなマップ。綺麗なフォント。ちょっと気の利いたセリフ(モンスター除名時とか)。上で書いた通り言葉で表すことが難しいけど大好きな世界。
…そう思うとディズニーランドの年間パス買ってる人の気持ちも分かる。ゲーム自体の"スペック"や"アイディア"はもちろん素晴らしいけどこの世界観がなければタクティクスオウガじゃなくなってしまう。人によってタクティクスオウガ好きな理由は言葉でたくさん挙げられてるけど、もっとベースの感覚的な部分で**好き!**ってのがあるんじゃないかと思うなぁ。
そんなわけでまだ未プレイの人や躊躇してる人もこの**「温もり」**を感じてもらえればなぁと思う。「いや、12月にモンハンあるし…」という人はそっちを進めて頂いて、1年後くらいにタクティクスオウガの名前を思い出してプレイしてもらえれば。時間経っても色あせるゲームじゃないから大丈夫だよ。